インタビュー

SUMICALM インタビュー連載:日比野設計福祉施設研究所 -第2回-

公開日:2017/04/11

未病 × 建築

高齢者施設の設計。

そこは、人生の最後を過ごすための場所。

今回は、前回に引き続き、神奈川県厚木市にある高齢者施設に特化した建築設計事務所の「日比野設計福祉施設研究所」の所長の裏木 隆さん、副所長の真栄城 嘉敦さんに「未病」についてや、QOL(Quality of life)(生活の質)、ADL(Activities of daily living)(日常生活動作)を低下させないための工夫をした実際の施工事例についてお話しをお伺いいたしました。

シリーズ2回の後編をお届けいたします。

副所長真栄城 嘉敦さん(写真 左)所長裏木 隆さん(写真 右)

地域に開かれたコミュニケーションの場で機能低下を防ぐ仕組みづくりを!

神奈川県では「未病を改善する」(=心身の状態を整え、より健康な状態に近づける)という取り組みを積極的に進めています。
「未病を改善する」3つの取組として「食」「運動(身体活動)」「社会参加(交流)」があげられますが、御社が手掛ける案件を通じて「未病」に対する取組があれば教えて下さい。

裏木高齢者の方たちは、今まで住まわれてきたそれぞれの生活スタイルが各々あり、それを継続して作り上げていくことが我々の役目であり施設のソフト作りになります。私たちもそうですが、運動しなければ運動能力は落ちますよね。 それと同じで高齢者の方々も普段の何気ない生活の中で動いたり、話したり、食事をとることで、機能低下を軽減できるのです。我々は、よりそういった活動を活発化させるような取り組みが重要だと考えています。

キーワードは、「コミュニケーション」

だまって一人で部屋に閉じこもらず、ユニットの外へ出て別の方とおしゃべりしたり、建物の外へ出て地域の方と話すことで、頭で考えますし、ただ話すだけでも「しゃべる機能」を鍛えることにつながります。
そういった意味で、我々はいかにコミュニケーションがスムーズにとれる場面をつくりだすかを考えています。
運動も、強制的にしないといけない環境だとどうしてもやらなくなります。
高齢者の方たちが、住まいの中でいかに自然な流れで、何をしたいかを考え、自ら行動を起こすようにする。例えば、見たいものがあれば、部屋の外へ出て下の階に降りたくなりますよね。もし見たいものがなければ、外へ出ないで部屋の中でじっとしてしまうかもしれません。それでは、機能低下が進む原因になってしまいます。
そうさせないために、例えば施設の1階にコミュニケーションの場になるような充実した空間をつくる、ということです。

「コミュニケーション」の場としての成功事例として、我々の手掛けた大阪の特別養護老人ホームをご紹介いたします。
こちらは、「地域の方がいかに自然に施設に来ていただけるか」を考えた事例です。
高齢者の方は、若い世代や、子どもたちとのふれ合いにとても興味を持ちます。若い方とは会話もはずみますし、子どもの声が聞こえただけで話そうという気力がわいてくるようです。この施設は、外部に開かれたコミュニケーションの場としてカフェを設け、一般の方が普通に利用できることで地域の方たちとの多世代交流の場につながりました。
団地群の中の一角にある施設なので、エリア的にも住民が多いことも重なり、竣工後1年を経過したところですが、昼時には満席となる、とても人気の高い憩いの場になっています。このカフェは、食事もコーヒーも味や品質にこだわることでリピーターを増やしています。大手コーヒーチェーンにいたバリスタが職員にいたり、食事のメニューについては地域へのリサーチを怠らずユーザーに求められるものを開発するなどして、ハードのみならずソフトの充実により集客できた事例です。

この建物は階層が分かれておりまして、上層階が特別養護老人ホームなのですが、そこにお住まいの高齢者の方たちも外食感覚で、1階のカフェに降りてきて食事をとるようになり、そこで出会った地域の方とコミュニケーションの輪が広がっているようです。
この施設にお住まいの方の介護度が、入居した当初より軽くなったと聞いた時はうれしかったです。若い施設長の方が、積極的に運営に取り組み、週に1~2回このカフェでは企業と提携したイベントなども開催され、ますます地域に開かれた集いの場になっている、とのことです。

特別養護老人ホーム「グランドオーク百寿」(大阪堺市)

自然と体を動かしたくなるしかけづくり

QOLやADLを低下させないための工夫をされた設計事例をご紹介ください。

裏木相模原の特別養護老人ホーム「緑JOY」という施設をご紹介いたします。

この写真は、施設内ジュースバーで、カフェのような憩いの場所です。

2枚目の写真は、福利厚生として、職員の子どもを預かることができる事業所内保育を実践したスペースです。

介護職員の人手不足の中で、せっかく就労している職員の中でも子育てに入る女性の方が介護職を離れざるを得ないのが実情です。そこをいかにして、働きやすい環境を作るかという課題に取り組みました。
また、それだけでなく子どもがいることで高齢者が元気になれる仕掛けがあればいいな、と考え、あえて施設の中に保育室を配置し、みんなから見える場所で、子どもの声が聞こえるようにしました。

3枚目、4枚目の写真は、特殊な試みですが施設内の岩盤浴の写真です。

岩盤浴や、露天のジャグジー風呂、トレーニングルームを設けて、運動をしながら機能訓練につながるような設備を用意しました。

「緑JOY」は、コミュニケーション、多世代交流、機能回復などをテーマに様々な取組を盛り込んだ施工事例です。

会話を弾ませるきっかけづくり

地域と共に暮らす住まいづくり

次に、別の案件をご紹介します。

特別養護老人ホーム グランモールさくら及川(厚木市)

ラウンジの壁面に、「厚木今昔物語」と称して地元の昔の風景の写真を展示しています。
昔の写真を眺めることで、高齢者の方は「昔ここは、こんなだったね。」などと会話がはずみます。厚木の街中や、昔の役場の写真の展示コーナーを作ることで、地域の方も見に来て、そこに住まわれている高齢者の方々との会話に花が咲くような光景が生まれています。
地域の方が自然に足を踏み入れ、そこで交流が生まれることが一番の目指すところです。

真栄城打合せをしている代表(施設運営者)の考えで、ソフト面のしかけにつながるハードを作り上げていきますが、実際にオペレーションする現場のスタッフ全員が同じ気持ちでいないとできません。
現場では、どこまで理念を浸透させることができるのか、施設での取り組みについて外部への情報の発信が大きな課題となっており、そのようなお手伝いも出来ていければいいなと思います。

この施設では、隣にある畑で収穫した土の着いた野菜を提供していただき、それを使った料理を提供するなど地域との関係性を持った運営をしています。 近隣ととてもよい関係性を作っておりますので、より多くの方へ発信し、知っていってもらいたい活動です。より多くの方に知ってもらうことで、福祉環境全体のレベルが上がっていくのではと感じています。

裏木今後は、より明確な施設のコンセプトを打ち出しハードとソフトの両面から取り組んでいる施設に人が集まっていくのだと思います。

災害時の、近隣の高齢の方や障がいをお持ちの方の緊急避難場所になるような施設づくりをすることで、日常から緊急時まで地域に開かれた施設であってほしいと思います。

スミカムでも、「良い施設」のひとつの要素として、地域に開かれた施設であること、と考えます。未病のテーマにそって、一部すでにご紹介いただきましたが、地域との連携といった部分で貴社案件をご紹介願います。

裏木ごくごく普通の日に、自然に地域に開かれた施設になっていることが大切だと思います。
そのために、年に何度かのイベントがきっかけになりますので、まずはそういったイベントができるスペースをつくろうと配慮します。
夏祭りをして地元の人たちが集まりやすいスペースを用意しよう、とか、イベントをするための電源や水回りを確保しやすいようにしよう、など細かなところまで考えます。
そういうことを反映することで、よりイベントが開きやすくなります。地域の方がイベントを通じて集まることから、普段の日常での地域(地元)交流へ繋げていきたいと思っております。

また、福祉施設に地域の防災拠点としての機能を持たせる事例もあります。
災害時、高齢者や障がいを持った方が行き場をなくすケースが少なくありませんので、福祉施設が災害時の避難場所となるサービスにつながるような提案をしています。
施設が、災害時に外部の高齢者や障がい者を受け入れることができるようなスペースや設備を用意するなどの配慮をしながら、地域へ開いていければと考えています。

ただ、普段から地域の人たちが、施設に慣れ親しみ理解していないと非常時にその施設へは来ないですよね。緊急時の居場所として、「あそこがあったな!」と思うには、普段の施設との距離感が重要だと思います。
地域の身近な場所、お互いの知り合いの関係づくりが、施設を中心にできていくことで、非常時や困った時に助けてもらえる関係につながっていってほしいです。

施設が、地域と施設だけでなく、地域の人たち同士の交流のきっかけづくりになることを願っています。

自分が住みたい施設ってどんなところですか?

最後に、未来を担う世代につないでいきたいと思う、御社が考える「新しい介護のカタチ」についてメッセージをお願いいたします。
また、最近の施工事例で「新しい介護」の提案をされている物件があれば、ご紹介ください。

裏木私どもがやっている高齢者施設、障がい者施設の設計は、自分がまだ経験していない世界です。幼児施設であれば、自分が育つ過程で体感したジャンルなので、ある程度利用者の立場にたった設計を経験則として設計していけます。
高齢者施設や障がい者施設は、我々の未体験ゾーンなので想像でしかありません。ただ、自分が年をとり、最期を過ごす場所として暮らしたい空間を作りたい、という気持ちで設計をしています。
まずは、「自分が入りたいと思う施設」をつくること。
我々は、建築設計という立場でその信念のもと携わっています。
これから、さらに施設管理者や介護の現場の方も「自分が入りたいと思う施設」「自分が受けたいと思う介護」を作っていけばいいと思います。我々も運営していく方々と一緒にチームとして考えていくような体制で臨んでいければと思っています。
建築だけ携わっていただけでは、我々の信念は実現できません。建物が建っても使ってくれなければ意味がありません。スペースを作ったのに倉庫になっていたのでは意味がありません。
運営のアイディアも提案していけるような建築設計事務所でありたいと思います。
新しい世代に、今までの運営の形にとらわれず新たな施設の在り方を提案していきたいです。

時代とともに住まいに求めるものが変わるのは当然です。それを施設運営者の方々と共に時代にあったものをいかに早く見つけ出し、世に出し続けられるかが我々の課題であり使命です。

我々は経験していないことにチャレンジしているからこそ、よりこの分野へ特化して、これから先も高齢者施設づくりに励んでいきます。

特別養護老人ホームグランモールさくら及川(神奈川県厚木市)
特別養護老人ホームグランドオーク百寿(大阪府堺市)
特別養護老人ホームグランドオーク百寿(大阪府堺市)

いかがでしたでしょうか。後編では日比野設計福祉施設研究所の施工事例をご紹介いただき、そこにこめられた思いをお話しいただきました。
「自分が住みたい場所」というシンプルな思いが、高齢者の住まいづくりの原点であり、業界全体には多くの課題はあるものの、それに関わる全員の答えになるのだと思います。
是非、日比野設計福祉施設研究所の今後の取組からもヒントを得て、充実した住まい探し、住まいづくりへ繋げていきたいと思います。

高齢者施設・障がい者施設の専門設計集団 日比野設計福祉施設研究所 http://hibino-fukushi.com

【事務所概要】

福祉施設研究所は、高齢者施設・障がい者施設設計のプロフェッショナル。

機能をデザインするだけではなく施設の付加価値をもデザインし、新しい福祉施設のスタイルを提案している。

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