インタビュー

SUMICALM インタビュー連載:日比野設計福祉施設研究所 -第1回-

公開日:2017/02/24

介護 × 建築

高齢者施設の設計。

そこは、人生の最後を過ごすための場所。

今回の特集では、神奈川県厚木市にある高齢者施設に特化した建築設計事務所の「日比野設計福祉施設研究所」の所長の裏木 隆さん、副所長の真栄城 嘉敦さんにご登場いただきます。

高齢者福祉施設の建築設計の目線から、良い施設とは何か、住まいづくりへの熱い思いや実際の施工事例をお話しくださり、設計という立場で福祉を盛り上げる頼もしいプロの方に出会うことができました。

今回からシリーズ2回でお届けいたします。

副所長真栄城 嘉敦さん(写真 左)所長裏木 隆さん(写真 右)

「人生の最後を過ごす場所」を軽く捉えてはいけない!

最初に、御社の事業内容と福祉施設研究所の立上げの経緯について教えてください。

裏木「福祉施設研究所」というブランド自体は、1972年の創業時はありませんでした。当初は公共建築や民間の施設、マンション、オフィスビルなど様々な用途の建物設計をしていた一般的な設計事務所でした。

その後、ちょうど日本が高齢化社会に突入した15年~20年くらい前に、我々も、今世の中に求められているものは何かを考えるようになりました。2000年の介護保険制度スタート以降も高齢者施設は林立していきましたが、その前から待機者を収容するためだけの施設が増えつつありました。そのような時代背景の中、とにかく高齢者の施設として定員数を確保すればいい、ということに違和感を感じ何か我々にできることはないのか、と考えるようになったのが最初のきっかけでした。

当時から「人生の終の棲家」を軽く捉えてはいけない、という強い思いを持っていました。いかに個々にあった生活が展開できるのか、を考える上で、もちろん我々が携わっているハードだけでは事足りません。ソフトとハードが一致する環境の整備から始めていかないと「終の棲家にふさわしい場所」の提供は実現できない、という思いの中、そのことだけに集中し掘り下げていきたいと考えるようになりました。それであれば、高齢者福祉と障がい者福祉に特化し「福祉」の専門家となり、掘り下げることにより精神的な面であったり、利用者やご家族の目線にたった施設づくりができるのではないかと思い福祉施設に特化していくことにしました。

その思いが強く、「福祉施設研究所」と名付けブランディングしていくことにしたのが15年くらい前のことです。

15年前以前にも、福祉施設の設計は行っておりましたが、そこだけに絞っていこうと決めてやりはじめたのが「福祉施設研究所」のスタートです。

「福祉施設研究所」という名称は、高齢者の方、障がい者の方が「その人らしく」暮らせる場をともに創っていく決意表明のようなものなのですね。(SUMICALM)

裏木そうですね。我々の想いをブランディングしたような感じです。

「幼児の城」も同じで、日比野設計では、高齢者施設と幼児施設と2つのブランドを作って展開していますが、子どものほうも利用者の需要に対しそのニーズに応えるべく特化した設計スタイルをとっております。

それ以降は、福祉施設の事に舵を固め、日々考え行動しています。

いろいろと携わっていくと福祉の世界は過渡期にあり興味深く

可能性は無限大にあることを感じます。

施設づくりの一番のモットーは「利用者目線」です。

高齢者施設を設計する上で、1番のモットーは何でしょうか。

裏木施設を設計するにあたり打ち合わせは、事業主であるオーナーと行います。

そうしますと、どうしても事業主の要望は、自分たち管理者側からの目線となり、管理者主体の要望が手厚くなります。しかし果たしてそれは「利用者から見たらどうなのか?」 という疑問が浮かび上がります。

事業主の要望も、最終的には利用者のための意見ではあるのですが、管理のしやすさを求める事業主が圧倒的に多いと感じます。管理のしやすさ=利用者の暮らしやすさ、利用者の住まいの快適さ、とは言えません。そこに自分たちが入ることにより、利用者は何を求めているのだろうか、ということを事業主と共に考えていくための打ち合わせを何度も重ねながら進めるようにしています。場合によっては、管理者側から見ると多少リスクがあることかもしれませんが、最終的にお住まいになる高齢者がそこの施設を指示してくれる、施設での暮らしぶりを喜んでくれる、お住まいになる高齢者のご家族が喜んでくれる、ということは結局、施設のためになるものと考えています。

それゆえに、一番のモットーは、「利用者目線」です。利用者の目線にたって設計をすることが一番の使命だと思っています。

管理者の方からの意見があった時は、常にその事例を高齢者の立場で捉えたらどうなのか、ということを考えるようにしています。管理のしやすい、メンテナンスのしやすい施設=居心地のよい空間か、というとスペースの作り方やデザインに関して往々にして寂しいものになりがちです。

たまに事業者と熱い討論になることもあります(笑)

ただ、それぞれ解釈の違いはあれど、我々も事業者も利用者にとってより良い施設を創ることへの想いと目指すところは同じで、お互いの意見交換をしながら我々の意見も理解してもらうように取り組んでいます。そこが我々の存在意義になるのではないかな、と考えています。今までの経験を含めて、我々にしかできない施設をつくりだすことに日々邁進しています。

既存物件の改修工事は、ご利用者の方の住まいながらの工事になるので建築や改修のノウハウと利用者目線がマストのお仕事です

地震大国である日本では老朽化した建物に求められることは、耐震性

新築の設計だけではなく、改修の設計についても請け負われていらっしゃいますか。

裏木改修の実績もありますが、数は新築物件のほうが多いです。

例えば、特別養護老人ホームで築年数が経ってきますと内装の改修や設備の改修を余儀なくされます。10年~15年経ちますと設備の改修はどうしても必要に迫られてきますので、各施設で悩んでいる事業者の方が多くいらっしゃると思います。

建物は15年を経過してきますと、耐用年数に応じて、空調設備、衛生設備、電気設備などに経年劣化による不具合が出始めます。そして改修するためには結構なコストがかかると同時に、現在ご利用いただいている施設なので既存物件を改修するためには、住まいながら、内装や設備機器の更新工事計画をたてていくことになります。

以前、内装仕上げのリフォームや設備更新を実施していくことを特別養護老人ホームにて行いました。日数はかかりますが、利用者の生活を守りながら施工していかなくてはならないので新築をやるよりも難しいですね。改修はノウハウを持っていないと難しいです。利用者目線がないと、工事期間中の音や振動や臭いなど工事で発生する様々なことがあるため改修工事計画をたてていくことは各施設の今後の課題になると思います。

老朽化している施設は増えてきています。2000年以前に立ち始めたものは、築20年前後の物件が多くなってきています。

ひとつは、耐震の問題があります。老朽化した建物に関しては、まずは耐震性が不安視されますので、我々も耐震補強や場合によっては、建て替えを提案しています。

それは、今後の課題であると認識しています。

ただ残念なことに、既存施設の改修や大規模修繕、建て替えについては一般的な場合だと補助制度がないため、施設側にとって財政面でのネックになっています。

行政も、新たに施設を増やしていくこと(新築)に関しては補助金をだす制度を整えていますが、既存の施設の改修に関しては制度が追い付いておりません。今後、既存建物の改修工事に関しても補助金制度が整ってこないと施設としても運営が厳しくなるのではないでしょうか。

改修の設計も、我々にご相談いただければ建築、構造、設備、意匠トータルでご提案させていただきます。

改修工事で、空間のイメージをがらりと変えることができます。

古い感じの特別養護老人ホームだったものが、内装を工夫することや色彩をかえることで、雰囲気が変わります

人の暮す空間だからこそ、その時代に合った改修の重要性を強く感じています。

福祉業界も、設備機器において様々な便利なものが出てきています。手すり、便器、手洗いなど機能面においても改修提案は必要だと思います。

御社の考える「良い施設」とはどのような施設でしょうか。

裏木まずは、今までもお伝えしてきたように「利用者目線」を実現できている施設だということですが、利用者からのニーズ、施設固有のニーズ、地域のニーズに合ったソフトが整っている施設であることが、「良い施設」なのではないでしょうか。

ハードとソフトがそろってこそ、施設として活きていくのですね。(SUMICALM)

ここで何かをやろう!という施設のコンセプトが明確になっていて、働く職員がそのコンセプトを理解し、働き方で形にしていっている施設は魅力的です。地域と関わっていこう!とする取り組みを積極的に行っている施設にとって、重要なことはソフトです。実際に高齢者と接するのは職員の方であり、「人 対 人」の世界です。ソフトがしっかりとした考えに基づいていないと、結局は何も提供できないですし利用者の満足につながらないと思います。ソフトに合ったハードづくりで、それがうまくいっているのが「良い施設」だと思いますが、そういったところはなかなか見えづらく、残念ながら施設からも発信ができていないと感じます。

どこの施設が、そういった取り組みをしているのかと知ろうとしても、一般の方にとっては非常に探しづらいですしわかりづらいですよね。

施設の概要や取組もそうですが、福祉の世界の面白さをもっと発信していきたいと思っています。これからさらに、若い人たちが福祉の業界に入ってきてほしいです。

福祉の仕事が、みんなの憧れの職業になったらいいな、と思います。

介護や福祉の仕事が、世間一般でいう憧れの職業になっていけるように業界全体のイメージを変えていきたいと思っています。

この仕事がやりたい、こういう人になりたい、という思いを忘れないで介護の仕事を続けて欲しいと思います。(SUMICALM)

それぞれの高齢者の方にあった「生活をつくる」ことが、「介護」

ズバリ!御社の考える「介護」とは何でしょうか。

裏木一般的に、高齢者にしても障がい者にしても「介護」という言葉は、出来ないことを手助けする、それが排泄であったり、食事であったり日常の中でその人が機能的にできないことを、ただ単に手伝う、とか、介助する、ということがイメージとしてあります。

しかし、それだけではない、と考えています。

もちろんそれもするけれど、その人らしい生活を作っていくことが「介護」だと考えています。利用している高齢者が、安心して充実した生活を送れること、当たり前のことかもしれませんが、それが「介護」であると思います。

それぞれの高齢者の方にあった「生活をつくる」ことが、「介護」であってほしいと思います。

助ける、とかそういうことではなく、その人の生活を作っていく・・・

我々も、介護のイメージを変えていきたいです。

「その人の生活を作る」ためには、その人の性格や過去の生い立ちを知らなければ実現できません。当然マニュアル通りに動いているだけでは、個人にあった生活を作ることはできません。

リスクは伴いますが、職員自らが色々なことを考えて、時に自由にやらせている施設とたまに出会います。職員自らが色々なことを自分で考え、高齢者の方には何がいいのか、何が役立つのか、そのために、こんなこともやってみよう、あんなこともやってみよう、という職員自らの案をサービスの一部にしている施設というのは、ひとつ殻を破った施設だな、と見ていて感じます。

そういったソフト作りがあって、結果的にそのソフトができるようになるハードづくりを提案していきたいと思っています。

特別養護老人ホーム縁JOY
特別養護老人ホームライフヒルズ舞岡苑
特別養護老人ホームグランモールさくら及川

いかがでしたでしょうか。福祉施設設計のプロフェッショナルならではのクリエイティブにとらえた介護のお話しを通じて施設の概念やイメージを皆様ご自身も変えていこうと思ったのではないでしょうか?

次回は、介護業界を変えていきたいという熱い思いを持ったモノづくりのプロの方たちのつくる施設を「未病」というキーワードを加えてご紹介していきます。

高齢者施設・障がい者施設の専門設計集団 日比野設計福祉施設研究所 http://hibino-fukushi.com

【事務所概要】

福祉施設研究所は、高齢者施設・障がい者施設設計のプロフェッショナル。

機能をデザインするだけではなく施設の付加価値をもデザインし、新しい福祉施設のスタイルを提案している。

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